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名古屋地方裁判所 昭和55年(ワ)1005号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

二1 原告は、本件土地を建売りの分譲宅地として販売することを意図してこれを購入したものであつたが、本件土地には幅員三メートルの進入路しかなく、建築基準法上建売住宅を建築するには支障があつたことから、訴外倉地昭典所有の隣地を買増して、幅員四メートルの進入路を確保すべく、被告らの協力を得るため、請求原因1(五)の特約を合意していたものであつた。しかし被告らは、訴外倉地との間で、訴訟上の和解により、三メートルの進入路を確保した経過もあり、双方間に感情的しこりも残つていたため、被告中野正市は、依頼状を書いたり、息子の叙雄を出向かせたりしたものの、自らは訴外倉地のところへ出向いて懇請するまではしなかつたこともあつて、昭和五四年一一月末日の中間金支払の期限までには右土地買収の問題は解決していなかつた。そして原告も、右期限までには中間金三一、一四八、九〇〇円の資金が用意できず、これを徒過するに至つた。

2 その後原告は、同年一二月一、二日頃、被告らに、現金および小切手で千数百万円を持参し、受領方を要請したが、被告らは、約定どおりの履行ではないとしてこれを拒否し、原告に対し、同年一二月一七日到達の書面で契約解除の意思表示をなした。勿も、右意思表示は、同年一二月一七日までに前記中間金の支払をなすよう催告し、あわせて支払ない場合の解除をなす旨の内容である。

3 しかし原告は、被告らに対し、引き続き本件土地の譲渡方を要請し、昭和五四年一二月三〇日、被告方で協議のうえ、原告と被告らは、請求原因1の売買契約の代金支払期日の約定を、昭和五五年一月一〇日に三一、一四八、九〇〇円を、同月末日にその残金を支払う旨変更することを合意し、あらためて本件土地売買契約を成立させた。その際被告らは、先の売買契約で代金支払期日を昭和五四年一一月末日と昭和五五年一月末日の二回に分けたのは、不動産譲渡益に対する課税が一年度中二〇、〇〇〇、〇〇〇円までは優遇措置が設けられているので、この優遇措置を受けるためであつたのであつたのに、原告の不履行によつてこれが受けられなくなるとの理由を述べ、再度売買契約を締結することに難色を示していたのであつたが、原告代表者徳満は、昭和五五年からは四〇、〇〇〇、〇〇〇円まで優遇措置が受けられる旨決定されていると説明し、これを信じた被告らが右合意に応じたものであつた。

4 原告と被告らは、その後右合意による中間金支払の期日である昭和五五年一月一〇日の期限を一日延期して同月一一日に支払を行うことにしたが、同月一一日、その履行に先だつて被告中野らが国税局に課税上の優遇措置についての税制改正を確かめに行つたところ、原告が説明した内容の税制改正についての法案が国会に上程されているものの、議決されているものではなく、成否は未定である旨の回答を得た。そこで被告らは、原告の説明は虚偽であつたと立腹し、原告の提供する中間金の受領を拒絶し、所有権移転登記手続のために用意していた印鑑証明書等の書類も交付せず、前示売買契約の履行をしなかつた。

5 そのため原告は、被告らに対する本訴請求債権を主張し、同月二六日には本件不動産に対する仮差押決定を得て、これを執行した。その後、同年三月三一日に公布された法律第九号により、租税特別措置法の一部が改正され、不動産の長期譲渡所得の課税について、特別控除後の譲渡益に対する課税優遇の限度額が四〇、〇〇〇、〇〇〇円まで引き上げられた。

三右認定事実によれば、

1 請求原因1の売買契約は、原告の代金中間金支払が期限に履行されなかつたため、昭和五四年一二月一七日に解除されたものである。すなわち、前示解除の意思表示は、催告に相当な期間を定めていないとも言えるが、本件売買契約には無催告解除の特約があるので、右解除の効力発生を妨げるものではない。また、被告らの進入路拡幅に対する協力義務は一応尽されているとみることができるうえ、右義務が中間金支払義務と先履行ないし同時履行の関係にあつたとも解されないので、原告の債務不履行は明らかであつたのである。

2  その後原告と被告らとの間には、昭和五四年一二月三一日、右売買契約の履行期を変更してあらためて売り渡す旨の合意が成立しているが、右合意については、双方間で課税上の優遇措置が四〇、〇〇〇、〇〇〇円まで受けられることを確認し、被告らは、再度取引を復活させても不利益はないものと信じ右合意を成立させたものであつたが、当時まだ租税特別措置法の一部を改正する法律は成立していないことが判明し、被告らは、右合意による履行を行うことができないとしたものである。そうであれば、被告の右合意についての意思表示は、その動機に錯誤があり、その動機は双方間の交渉の過程で原告にも表示されていたものであるうえ、不動産処分による実際上の所得額に重大な影響をもたらすものであるから右動機は契約の要素とみることができるので、錯誤による無効原因が存在する。意思表示の錯誤の有無は、その意思表示がなされた時を基準に判断されるべきであるから、事後の法改正が存在したことをもつて錯誤がないとはいえない。  (大内捷司)

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